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コアコンピタンスと現地化、中国事業のキーワード
外資企業の優等生のKFC、減速のワケは?
2013年1月14日

 ファストフード大手のケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が「速成鶏」問題で足元をすくわれている。経営母体のヤム・ブランズは中国事業の売上高見通しを下方修正。中国での成功企業と言われてきたKFCが事業の曲がり角を迎えたとの声も出てきた。

 速成鶏とは、過剰な抗生物質や成長促進剤を投与した鶏肉を指す。2012年末から、山東省の業者がKFC向けに出荷した鶏肉が速成鶏だという地元メディア報道が相次ぎ、食の安全問題が浮上していた。KFCは1月10日になり、「問題を外部に迅速に知らせなかった」と謝罪。ただ、この謝罪は、10年から11年にかけて検査機関に調査依頼した鶏肉から基準超の抗生物質が検出されたにもかかわらず、「管理当局への報告及び公表を行わなかったこと」に対するもの。厳密に言えば、「速成鶏を使用していたこと」に関しての謝罪ではないため、一部では不満が高まっている。

 この謝罪に先立つ1月7日、ヤム・ブランズは12年10~12月期の中国事業の既存店売上高が前年同期比で6%減になったもようと発表した。同社は12年11月30日に同期で4%減収の見通しを出していたが、これを上回る減収ペースになってしまったことになる。詳細は明らかにしていないものの、今回の速成鶏問題も足を引っ張った要因の一つと考えられよう。ある専門家によると、同問題の発生後、KFCの売上高は20~50%落ち込んだとされ、影響は3~5カ月は続くとのことである。

 もっとも、12年におけるヤム・ブランズの中国事業は必ずしも順調とは言えなかった。既存店売上高の増加ペースを見ると、12年1~3月期は前年同期比14%増、4~6月期は同10%増、7~9月期は同6%増とスローダウンしている。前述のように、10~12月期はマイナス成長になりそうだ。

 この原因としてはまず中国経済の成長鈍化が挙げられようが、それ以上にKFCの構造的問題も指摘されている。ヤム・ブランズは12年、中国において約800店を新規オープンしたが、13年も新規店舗開設目標を700店としている。だが、大都市の繁華街に代表される好立地、いわゆる「黄金スポット」はすでに飽和状態。周辺地域にも集中的に出店して規模のメリットを重視していく戦略と思われるが、皮肉なことに店舗同士の「食い合い」になってしまい、消費者の流れが分散し、結果的に単店舗当たりの収益が悪化する懸念がある。ニーズがあれば規模のメリットも生きてくるだろうが、景気低迷、食の安全問題などが足を引っ張れば、客足が遠のいてコストすら回収できないという事態を招きかねない。

 KFCの現地化が限界を迎えつつあるとの声も聞かれる。「イタリアンミートボールライス」や「イタリアンベジタブルチキンライス」など、白飯を採りいれたユニークなメニュー構成は工夫されているが、やはりローカルブランドには劣るとの見方がある。KFCやマクドナルドに代表されるファストフードチェーンは徹底したマニュアル化が強さの根源だが、中華料理になると火の具合や調理時間などをさらに考慮しなければならず、料理提供が複雑になるというのだ。また、健康志向になりつつある「80後」や「90後」世代になると炭酸飲料の注文率が低くなるというデータもある。

 中華ファストフードでは真功夫が力を伸ばしつつあり、同じコメ文化ということで吉野家の人気も高まっている。ヤム・ブランズは火鍋レストランの小肥羊を買収したが、これは独自のサービスを展開する地場系の海底捞や台湾発の火鍋チェーン店である呷哺呷哺を意識した動きとも捉えられる。

 これまでは外食チェーンの成功者といえばKFCと誰もが答えていた。しかし、食の多様化や食の安全問題への意識が高まるにつれてその様相も変化しつつある。企業イメージや調理上の独自の強みを生かしながら中国市場で成長してきたKFCだが、その成長モデルが曲がり角を迎えつつあることは、同じ外資系企業として日系企業にも参考になる。代表的なキーワードはコアコンピタンスと現地化などとなるだろう。自身の強みを認識しつつ、常にマーケットを見据えた経営戦略や商品展開が求められる。

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