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スポーツ用品ブランドの盛衰
スポーツとカジュアルの狭間で
2013年4月30日

 世界的にアパレル業界の中心となって久しいファストファッション。中国でも事情は同じだ。H&MやZARA、ユニクロなどの店舗が大都市はもちろん地方都市のショッピングモールにまで進出し、その看板を見る機会が増えてきた。その一方で、2000年代に中国アパレル業界を引っ張ってきたスポーツブランドは曲がり角を迎えているようだ。

 北京市の繁華街、王府井にある大型ショッピングモール「北京apm」。明るい雰囲気と開放感がある吹き抜けの構造、そして人気ブランドや著名外食チェーンの出店が若者をひきつける、今や北京を代表する商業施設だ。ここにテナント出店するナイキが近く、契約満了により撤退するとの話が浮上した。代わって進出するのがH&Mだという。まさに主役交代といった趣だ。

 北京apm側にとっては、消費者のニーズを考慮したテナント変更の一環となる。ナイキだけではなく、全テナントの半分近くが入れ替えられる可能性もあるという。より人気のあるブランドを入れることで集客力をアップすることがモール全体の底上げにつながるのも事実。また、オーナー側にとっては、売上高ベースのテナント料契約(売り上げの何%かを徴収する、いわゆる歩合制)がある場合、ブランドの売り上げが伸びれば伸びるほど「実入り」も大きくなる。

 ナイキにとっては、北京apmの旗艦店を閉鎖することは経営コスト削減につながり、売上面での影響は軽微とも言われる。ナイキは北京市ですでに100以上の店舗を展開しており、そのほとんどがフランチャイズ店。ブランドイメージのために新旗艦店をオープンするだろうが、それほど前のめりでもないというのが市場の見立てだ。

 ここで考えるべきことは、やはり中国市場の特性と消費者の嗜好である。中国では1990年代後半からスポーツブランドの人気が急上昇し、ナイキやアディダスなどの外資系に加え、2000年代には李寧、安踏、361度、特歩などの国産ブランドも育ってきた。08年の北京五輪を経て国民的なスポーツブームが来るのでは、という期待感もあった時代だ。

 しかしながら、中国のスポーツ産業は巨大と言われながらも、その裾野は十分には広がっていない。専門分野のエリート育成という国家方針もあり、一般市民へのスポーツ普及は日本ほどではないだろう。スポーツジムや公共施設などの整備も進むが、健康維持のための運動は日常の体操で十分と考える市民も多いらしい。最近では、大気汚染の中でジョギングする方が健康によくないという声も聞こえるほどだ。

 そのため、スポーツ用品ブランド店は、競技スポーツ用のウェアや道具をそろえる一方で、カジュアルウェアなどのアパレル用品を多く取りそろえているのが特徴だ。ブランドロゴを前面に出した服で街を闊歩する若者も多い。ところが、カジュアルウェアを中心に商品展開をしても、消費者のブランドロイヤリティは低いままという現実も明らかになってきた。競技用ウェアや道具などでクオリティやブランドの高さをアピールできているならばロイヤリティは高いかもしれないが、同じカジュアルウェアならば他社との競争にさらされる。そこで出てきたのがファストファッション各社。価格設定やデザイン、商品回転の速さなどがモノを言う世界では、ファストファッションに分があるのも仕方ない。

 今後、中国で一般市民の間にスポーツブームが起き、スポーツブランドの人気が今まで以上に高まり、専門チェーン店などができていく可能性もある。現在、大量の在庫を抱え赤字経営を強いられているスポーツ用品メーカーは、そのタイミングが来るのを心待ちにしているかもしれない。ただ、カジュアルウェアの攻勢が続く現状では、スポーツブランドの冬の時代はいつ終わりを迎えるのか、見通しは明るくない。

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