中国の経済発展に伴い、事業の成功や不動産投資などを通して富裕層が形成されている。彼らの消費行動や実態を研究分析していく動きも見られるようになった。
振り返ると、1990年代や2000年代、日本の商品やブランドは、欧米ブランドよりは下、一方で韓国や台湾、中国ローカルブランドよりは上だが価格が高すぎということで、中途半端な位置付けになっていたものの、富裕層向けに日本の商品を販売する動きもあった。富裕層をターゲットとした雑誌やリストが存在し、媒体を活用して情報発信し、販売につなげていこうというものが代表的だ。
しかし、そのような高額消費の実態は、地方政府や国営企業の接待によるものが多く、12年に習近平政権がスタートすると、いわゆる「倹約令」の影響もあり、消費は一気に下火となった。腕時計や高級酒をはじめとする贈り物需要が急激に減退し、世界の奢侈品市場の成長を後押ししてきた中国市場が一気に萎み始めている。
人件費の上昇による製造業や輸出業の低迷、日中関係の悪化による日本からの投資減、さらには株価急落や経済成長の減速などから、富裕層の消費行動、さらには思想や考え方、ライフスタイルも変化しているに違いないと仮定する。
富裕層が本当に欲している物は、高級時計や酒などの“モノ”ではなく、子供の教育の充実や将来的な移民などである。
一方で、中国人の全体的な経済水準が上昇し、ボリュームゾーンの中間層が増えてきているなか、さらには円安元高も寄与し、日本の商品に割安感が生じてきた。それを背景に昨今の“爆買い”があるのだが、彼らにもう少し高級品を買わせる、もしくは今まで無理とあきらめていたハイエンドゾーンの商品をもう一度富裕層向けに販売できないかという動きが一部メーカーからも出始めている。
以前は富裕層へのアプローチとして使われていたインターネットやメールだが、事業経営者や高級官僚などにはほとんど意味をなさない。彼らは積極的にインターネットやメールを使って仕事をしたり、情報収集をすることがなく(部下にやらせてしまう)、ましてはネット通販でモノを買うなどの行動はほぼなかった。
しかし、今ではネット通販も成熟し、スマホによる通販も普及しているなか、富裕層もスマホを使いこなす時代になった。高級品や家電、不動産などをスマホを使って情報収集し、購入する人たちが出始めているのも事実だ。
また、今までの富裕層の概念とは違う新しい富裕層ゾーンが出始めているのも注目に値する。外資系企業だけでなく地場系企業でも、大企業などの管理層になれば年収1000万円を超える収入を得ている人たちが数多く存在する。そうした人たちを“新富裕層”と呼び、新たな消費者ゾーンとして研究をすることも重要と考える。
日本企業は経済的なマクロ変化だけでなく、ネット通販やスマホの普及、さらにはボリュームを急拡大させる中間層と超富裕層の間に位置する新富裕層など、客層を研究分析した上で、中国市場を攻略するタイミングになっているのではないだろうか。(続く)