会報誌2018年10月号(vol.58)は、急成長する中国コーヒー市場にスポットライトを当てました。
上海に初めて移り住み始めた2004年ごろには、まだ市内にも数えるくらいしかなかったカフェ。「中国は茶文化の世界だからコーヒーなんて…」と言われていた当時から10数年経った今、まさかここまで中国全土にカフェが広がり、かつ中国の人たちが日頃からコーヒーを楽しむようになるとは想像できませんでした。
グルメ生活関連クチコミアプリの「美団点評」研究院が公表した飲料業界の報告によると、16年に中国のカフェ数は10万店を突破したとのこと。そのうち、店舗数で中国カフェチェーンのトップに君臨するのが、米スターバックスコーヒーです。1999年に北京で第一号店をオープンして以来、19年間で中国141都市、3300店近くを運営しています。
市場シェアでも、ユーロモニターと中商産業研究所が共同で発表した「2017年中国カフェチェーン市場シェアランキング」で、スターバックスが51%と堂々のトップ。2位以下の台湾系上島珈琲(12.8%)、マックカフェ(6.2%)、英コスタコーヒー(5.7%)を圧倒しています。
スターバックスは2018年5月に中国で開催された投資者向け会議で、今後5年間に中国で毎年600店以上をオープン。22年末までに店舗数を230都市6000店にまで増やすと宣言。もはや「向かうところ敵なし」の様相で、トップの座を盤石にする計画を華々しく発表したかと思った矢先、同年第2四半期の財務報告で、中国及びアジア太平洋地区のオペレーション利益が7.6%減、同一店舗の業績も前年比平均2%程度減だったとのこと。中国進出以来19年間で初の利益減となりました。
この利益減の背景として、景気減速による消費者の節約志向や他チェーン店との競争激化、コンビニコーヒーの普及など挙げられますが、一番の原因は「新小売(新しい小売)」カフェの台頭でしょう。
新小売とは、16年にアリババ会長のジャック・マー(馬雲)氏が提唱。ネットとリアルの垣根をなくし、ビッグデータと物流を高度に融合させるオムニチャネル概念のことですが、まさにこのコンセプトを体現させた新しいタイプのカフェチェーンが、今、怒涛の勢いで一気に勢力を拡大しています。
スマートフォン(スマホ)のアプリから注文、決済を終えると、後は配送されるのを待つのみという至ってシンプルなモデル。もちろんお店に行ってピックアップすることも可能なのですが、そこでゆっくりと友達や同僚とおしゃべりしながらコーヒーを楽しむための席はほとんど用意されていません。つまり、近年中国で普及する「餓了麼」や「美団外売」などネット出前(フードデリバリー)に特化したカフェ形態が、今やスターバックスを脅かす存在にまでなっているのです。
その代表格が「ラッキンコーヒー(Luckin Coffee・瑞幸咖啡)」。2018年1月にテスト営業を開始、その後5月8日に正式オープン。現在、北京、上海、広州、西安、青島など全国21都市に1400店あまりを展開、瞬く間に中国国内第2位のカフェチェーンに成長しました。
エレベーターやチャットアプリの微信(ウィーチャット)内で大量の広告を流し、一気に知名度をアップ。一杯目無料のキャンペーンで、まずはお試しをさせながら、その後ひっきりなしに割引のクーポンがショートメッセージに届きます。「2杯買えば、もう1杯無料」、「5杯買えば、もう5杯無料」など同僚を集めて買うといったニーズも見事に掘り起こしています。
厳選したコーヒー豆のほか、WBC(世界バリスタ選手権)の優勝者を監修役として招聘。コーヒーマシンやミルクなども欧米のトップブランドを採用するなど、昨今のより良いモノを求める「消費昇級(アップグレード)」トレンドも強く意識。さらにはアプリ上で、コーヒーの制作過程や調理場の衛生状況をボタン一つで「ライブ中継」させるほどの徹底ぶり。
合理的な価格、コストパフォーマンス、スターバックスにも劣らぬ品質で、多くの消費者層の心を掴むことに成功したラッキンコーヒー。同社の統計によると、オープンから3ヶ月以上を経た店舗でのリピート率は80%超とのことで、まさにスターバックスも「寝耳に水」状態だったでしょう。
そうした中、スターバックスは18年8月にアリババとの戦略提携を発表。アリババ傘下のネット出前プラットフォーム「餓了麽」を活用したネット出前サービス「専星送」をスタート。世界初の試みとなったスターバックスのネット出前サービスは、同年9月に北京と上海の主要エリアからスタート。その後、広州、深圳、成都、杭州、天津、南京、武漢、寧波、蘇州の9都市にも進出済み。18年末には、全国30都市2000店以上で、ネット出前サービスの提供を実現させる予定とのこと。
スターバックスのほか、コスタ、マックカフェ、香港系パシフィックコーヒー(太平洋珈琲)など大手カフェチェーンも続々と、この「ネット出前」市場に参入。新興のネット出前専門カフェチェーンも多く誕生し、まさに「群雄割拠」の時代を迎えようとしています。
サードウェーブコーヒーブームを牽引している米ブルーボトルコーヒーも、中国はまだ未進出ながら、微信(ウィーチャット)の朋友圏(モーメンツ)では、日本やアメリカで同店を訪れた消費者が写真を多数アップしており、知名度はうなぎのぼり。上海に進出した米ピーツコーヒー(Peet’s Coffee)や最近人気の上海発高級コーヒーブランド「Seesaw」など個性的なカフェも、SNS(社交サイト)上で高い人気を誇っています。
このように、今後もさらなる急成長が見込める中国コーヒー市場について、巻頭特集で市場全般を、トレンドウォッチではコーヒー出前(デリバリー)市場を、そして企業研究でラッキンコーヒーをそれぞれ取り上げました。18年8月に上海に初上陸した我が日本のドトールコーヒーですが、果たして勝機はいかに。同社はじめ、日本の飲食業全般にとって参考となるよう、調査・分析しました。
このほかに、都市研究として中国主要都市の「商業魅力ランキング」を紹介。中国で特定の都市を話題にする際、その経済発展力や位置づけを「級」によりランク付けします。例えば上海は一線級都市であり、福建省の厦門(アモイ)は二線級都市のようにです。
実は、この級によるランク付けは正式な基準があるわけではありません。一線級都市の北京、上海、広州、深センは揺るぎないのですが、それ以降の二線級、三線級、四線級となると、どんな基準が適用されているのか曖昧です。
そうした中、2013年から中国経済専門メディア大手の第一財経の新一線都市研究所が公表している「中国都市商業魅力ランキング」は、最も権威あるランク付けの基準として注目に値します。よって、今号ではこの最新のランキングについて詳しく説明しています。
特に注目なのが、二線級の中でも特に際立った実力を兼ね備え、一線級にもほぼ匹敵するほどの魅力を持つ「新一線級」の15都市について。今回はトップから成都、杭州、重慶、武漢、蘇州、西安、天津、南京、鄭州、長沙、瀋陽、青島、寧波、東莞、そして無錫の順。大連が21位で新一線級都市リストから外れるなど、中国の都市像もこれまでとは違った見方をする必要がありそうです。
そのほか、以下のとおり、中国マーケティングやECに関する情報が盛りだくさんです。
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ニュースレター冊子『チャイナ・マーケット・インサイト』
2018年10月号(vol.58) もくじ
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【巻頭特集】
『地方都市まで広がる中国コーヒー市場』
ネット出前コーヒー店がスタバの脅威に
【トレンドウォッチ】
『中国コーヒーデリバリー、新旧チェーンが争奪』
コーヒーにもネット出前旋風?
【企業研究】
『驚異的スピードで店舗網を拡大「ラッキンコーヒー」』
18年中国消費シーンの新星現る
【都市研究】
『“新一線級”トップは消費の都「成都」』
中国都市商業魅力ランキング発表
【都市別調査】
茶館と網紅のマジック ~その③
『シルバーライフと若者消費に手がかり』