会報誌2020年7&8月合併号(vol.76)では、巻頭特集で中国版「D2C」の「私域」について調査・研究しました。
日本でも最近話題の「D2C」。D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、「消費者に対して商品を直接的に販売する」というビジネスモデルのことです。B2BやB2C、C2Cなどは企業や消費者など「誰と誰の取引であるか」を表した取引形態ですが、D2Cはどちらかというと「どのように取引をするか」によりフォーカスしているのが特徴です。
ダイレクトという文言の通り、既存の小売・流通店やECプラットフォームなどを介さず、自社で企画・製造した商品を、自社のチャネルで直接販売する業態ですが、注目されるようになったのは、2010年頃でアメリカから。ブログやSNS(ソーシャルサイト)などを駆使して成功を収めたスタートアップ企業が始まりで、ビジネスモデルとしても十分に成り立つことを証明し、最近では大企業やメーカーもD2Cの展開に乗り出しています。
D2Cが流行りだした背景には「デジタルシフト」があります。かつてテレビCMや新聞、雑誌などから各種情報を取得していた消費者は、インターネットの普及でウェブサイトへ移行。さらにはスマートフォン(スマホ)の登場で、SNSが重要な情報収集手段となりました。
スマホで得た情報から直接EC(電子商取引)サイトへアクセスし、注文、デリバリーが一般化した昨今、消費者だけでなく企業のほうも、こうしたデジタルシフトに対応しているかどうかが至上命題となりました。
また新しい消費者層として存在感を高めつつある1995年以降生まれの「Z世代」の存在も欠かせません。先月号(20年6月号)でも特集したZ世代。デジタルどころかソーシャルネイティブとも称される若者たちは、自分だけのユニークな商品を好みます。
スマホ・SNSで商品だけでなくブランドストーリーや信念、こだわりなどの情報も発信。 “スモールマス”(ニッチな市場ニーズ)ながらもロイヤルティ(忠誠心)の高いファンに支えられ、存在感を高めつつあるD2C。では中国でのD2Cはどのような状況なのでしょうか。
中国ではブランドではなく、より「売り方」のほうに着目して語られることのほうが多いようです。つまり既存の大手メーカーや著名ブランドを含め、自ら構築したネットワーク・コミュニケーション網をいかに活用して、商品を直接消費者に購入してもらうかという手法のほう。
それが、中国で「私域」と称されるネットワーク網のこと。「私的」な「網域」の略で、「プライベート・ネットワーク・ドメイン」という直訳になりますでしょうか。
一方、淘宝(タオバオ)や天猫(Tモール)、京東(JDドットコム)、百度(バイドゥ)など既存のネット・EC大手は、「公衆(パブリック)」ということで「公域」となります。まさにこうした公域に依存しない独立した情報網、つまり顧客との接点をいかに自社ネットワーク化するかが、中国でも注目されているのです。
今号では、このD2Cが中国でどのように展開・運営されているのかについて、公域と私域の違いから、私域の強み、運営主体、構築・運営方法、ビジネス生態系(エコシステム)、消費者の反応、微信や企業微信の活用事例のほか、新興コスメブランド「完美日記(パーフェクトダイアリー)」など成功事例4社のケーススタディも交えながら、詳しく調査レポートしています。
次に中国ECの“影の主役”として、ますます存在感を増す「社交電商」業界を調査・分析しました。
社交電商の「社交」とは、中国語でソーシャルという意味で、つまりソーシャルネットワークサービス(SNS)のこと。「電商」は電子商務(電子商取引)なのでEC。つまり社交電商は「ソーシャルEC」となります。SNSなど社交の場から商品ページに誘導し、販売転換(コンバージョン)するシステムを備えたEコマースのことです。
アリババの淘宝網(タオバオ)が誕生した2003年以降、中国の消費者向けネット通販(Eコマース)市場は順調に成長を持続させてきました。しかし近年は成長速度も鈍化。市場の飽和感も否めません。顧客獲得コストが高騰し続ける中、それを打破する新たな“ブルーオーシャン”として期待を集めているのがソーシャルECです。
中国のソーシャルECとは、チャットアプリの微信(ウィーチャット)、ミニブログの微博(ウェイボ)、動画投稿の抖音(ドウイン・TikTok)や快手(クアイショウ)といったSNSのツール上で、ユーザーのネットワークや彼らが発信するコンテンツを利用して、ブランドや商品の情報を拡散し、販売へと落とし込む手法となります。
もちろんユーザーに商品を購入させることが最終目標ですが、単に情報をフォロー・シェアしてもらうことで、効果的な販売促進を展開することが可能となるため、ネット上の人間関係を利用した新たなEコマースモデルの発展形ともいえるでしょう。
なんとなく概念はイメージできるかもしれませんが、具体的にどのような仕組みやビジネスモデルになっているのか。すべてが微信を中心としたスマホのSNSアプリ内で繰り広げられているため、実態がわかりにくいのも事実です。そこで今号では詳しく調査・分析した上で、極力わかりやすく解説しています。
淘宝や天猫、京東など従来型ECとの違いから、ソーシャルEC成長の要因、市場規模や従事者数の推移、ユーザー層、ASP・SaaS(Software as a Service)ベンダーの実態を調査・分析。またソーシャルECの4大モデルである①共同購入型、②会員アフィリエイト(分銷)型、③コンテンツシェア型、④社区・社群コミュニティ共同購入型について、それぞれ詳しく説明しています。
そのほか、以下のとおり、中国消費やマーケティングに関する情報が盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2020年7&8月合併号(vol.76) もくじ
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【巻頭特集】中国版D2C「私域」調査研究レポート
中国版D2Cはいかに微信を活用するか!!
SNS時代の王道マーケティング「私域」徹底研究
【業界研究】中国ソーシャルEC市場調査レポート
中国ECの“影の主役”として急成長
存在感増す「社交電商(ソーシャルEC)」徹底調査
【マーケティングレポート】セルフィの鮮度③&完
・突然現れる店、群がる消費者たち
・自分が変われば、世界が変わる