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“網紅”活用「S2b2c」モデル研究レポート(1)
スマホSNS時代の新しい「S2b2c」モデルとは?
2021年3月16日
KOL・インフルエンサーに“権限”を託す
スマホSNS時代の新しい「S2b2c」モデルとは?

  企業や消費者との取引関係を示すB2B(Business to Business)やB2C(Business to Consumer)といったビジネス用語について、すでに知らない人はいないだろう。

  近年ではC2B(Consumer to Business)やC2C(Consumer to Consumer)、C2F(Consumer to Factory)、C2M(Consumer to Manufactory)など、ネットやIT技術の進歩とともに、新しいビジネスモデルが続々と登場している。

  そうした中、スマートフォン(スマホ)の普及とともに、これまでの生産者から流通、小売、消費者へと連なるサプライチェーン構造をガラッと変えるほどの変革(イノベーション)が起こりつつある。その重要な担い手となっているのが、中国で「網紅(ワンホン ※ネットで人気の意)」と呼ばれるKOL(キーオピニオンリーダー)やインフルエンサーなどの個人だ。

  会報誌2020年3月号の特集でも、中国で成功するためには「いかに網紅になるか?」が至上命題だと伝えたが、昨今の中国ではいかにこうした網紅の影響力や販売力を取り込むかが、ますます大事になってきている。

  最近では、網紅だけでなく、各個人の社交内のグループ仲間である「社群」やプライベートな範囲という意味合いの「私域」でのビジネスにも注目が集まっている。これらはチャット・SNSアプリの微信(ウィーチャット)がベースとなるのだが、知り合い同士で商品を紹介・販売して、売れたらキックバックをもらうという、一見“ネットワークビジネス”的な発想も内包している。

  こうした状況を背景に、中国で最近特に注目を集めているのが、「S2b2c」という新しいビジネスモデル。一見、いわゆる「B2C」に類似したモデルのようにも見えるが、なぜ小文字の「b」と「c」なのか?またこの「S」は何を意味しているのか?

  そこで今回では、そもそもこのS2b2cとは、一体どのようなビジネスモデルなのか?B2BやB2Cとの違いはどこにあるのか?といった疑問を解説。同時にS2b2cモデルの成功事例をいくつか紹介しながら、既存のビジネスモデルにどのようなインパクトを与えうるのかについて、その真相に迫りたい

新ビジネスモデル「S2b2c」とは?
「S」「b」「c」はそれぞれ何を指すか?

  ビジネスモデルの新しい概念である「S2b2c」が、初めて公の場に登場したのは2017年。提唱したのは、アリババ集団の執行副総裁兼参謀長で、同集団の学術委員会主席、湖畔大学教育長なども兼任する曾鳴(Zeng Ming)だった。

 S2b2cの「S」はサプライヤー(Supplier)のこと。

 「b」はビジネス(business)を意味するが、小文字の「b」にしているのは、中小企業から個人経営者、KOL(キーオピニオンリーダー)やインフルエンサー、さらには友人や知人など交友関係の広い「個人」を意図しているから。大企業との対比で小文字にしているともいえるだろう。

 そして「c」は顧客(customer)だ。ここで消費者(Consumer)ではなく顧客と範囲を狭めている点が要注目だ。またここでも小文字の「c」にしている理由は、あくまでも上記の「b」が抱えるフォロワー(ファン)が対象で、広い意味での消費者よりも絶対数が少ないことを意味しているのだろう。

 これらSとbとcとが一堂に会して売買(取引)ができるマーケットプレイスを「プラットフォーム」化しようというのが、このS2b2cモデルの真骨頂だ。商品を有するサプライヤーをプラットフォームに集め、同じくフォロワーやファンを多く抱え、ネット上で影響力と販売力を有する個人(企業ではなく)を呼んで、顧客に対して商品を販売していくというシステムだ。 

 このようなマーケットプレイスにとってまず大事なのが、当然のことながらいかに良い商品を揃えるかにつきる。優れた商品を提供できるSを集め、その情報をbに提供。企業と比べて資金や調達面で劣る個人運営が主体のbでも、気に入った商品を一括購入できるようプラットフォーム側がアレンジする。

 同時に商品だけでなく、情報発信や販売などのフローをデジタル化するSaaS(Software as a Service)ツールや技術的なサポート、教育研修などの支援も充実させ、cにより良いサービスやエクスペリエンス(体験)を提供できるよう全面的にバックアップする。

 サプライヤーである「S」は、SaaSツールのほかにサプライチェーンから流通チャネル、マーケティング、カスタマーサービス、金融、ビッグデータ、情報システムに至る様々な分野の付加価値サービスも提供。Sの対象となるプレイヤーとして、従来型の大手ブランド企業やメーカー、ECプラットフォーム、サプライヤープラットフォーム、卸売市場などがあげられる。

 小規模ビジネス業者である「b」は大手小売・流通企業や代理店などではなく、通常は中小零細企業や個人経営者、網紅(ワンホン)と呼ばれるKOL(キーオピニオンリーダー)やインフルエンサーなどが含まれる。彼らは資金や人的なリソースには限りがあるが、フォロワーやファンである顧客とはより近い関係を保持している。

 bの顧客となる「c」は、フォロワーのほかに、友人・知人関係から、友人の友人といった二次的、三次的人脈のつながりまで含まれることが多い。このため顧客に対してより責任感が強くなり、対応やサービスにも積極的かつ親身になるのが特徴だ。もちろん商品ではなくその人との関係(つながり)が前提となるので、顧客からの信頼も厚く、忠誠度(ロイヤルティ)も高くなる。

B2BやB2Cとの違いは?

 ここで改めて、従来型のB2BやB2Cモデルとの違いについて触れておこう。

 B2BとB2Cモデル、いずれも主体はあくまでも「B」。メーカーや小売流通などいわゆる「企業」が商品やサービスを提供(販売)する。その販売先が、企業間であれば「2B」、消費者であれば「2C」となり、それぞれ独立した存在だ。

 一方、S2b2cモデルの場合、「S」と「b」と「c」それぞれが相互により密接な関係にあり、1つの“エコシステム”(ビジネス生態系)を形成している。ある意味、一種の“運命共同体”的な関係にあるともいえる。

 S、b、cは、B2Bのようにシンプルな取引関係ではなく、B2Cのような上下関係でもない。

 Sとbはお互いに手を携えて、cに商品やサービスを提供するのだが、同時にbがcに対してより良い商品や体験を提供するためには、Sからのサポートが欠かせない。もちろんSにとっても、bを通さなければ、そもそもcに商品やサービスを提供できない。

 性能や品質が保証された商品をリーズナブルな価格で入手したいcにとって、信頼するbが良いと判断するSから、何ら迷いもなく購入できるというメリットもある。

 さらにcからのコメントやクレームなども、bがタイムリーに吸収してSにフィードバックできるというC2F(C2M)的な機能も備わっている。(図1:S2b2cモデル)(図2:S・b・c三者の関係)
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