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中国版D2C「私域」調査研究レポート(2)
私域トラフィックとは? オフライン企業も注目
2021年5月4日
私域トラフィックとは?
オフライン企業も注目

 私域トラフィックは、「公域流量(パブリック・トラフィック)」(※以下、「公域トラフィック」)に相対する概念だ。公域トラフィックは大手プラットフォーム各社での訪問や閲覧のデータ量の総称で、淘宝(タオバオ)、天猫(Tモール)、京東(JDドットコム)、百度(バイドゥ)、抖音(ドウイン・TikTok)などに属する。

 企業や個人は、こうした公域トラフィックユーザーの一部にしかアクセスできず、またそのアクセスには費用も伴う。ユーザーにアクセスするための広告・宣伝費や検索などのSEO費などがこれに当たる。

 これに対し、メーカーやブランド企業、または個人が自ら有しているのが私域トラフィックだ。いつでも、何回でも、無料でアクセスできるのが大きなメリットといえる。

 私域トラフィックを構成するツールには、微信(ウィーチャット)の「公衆号(公式アカウント)」、個人が運営する「個人号(個人アカウント)」、グループチャット、ミニアプリ(小程序)、中国で「自媒体」と称される個人メディア(We Media)のほか、自社アプリなども挙げられる。

 ユーザー(フォロワー)に直接アクセスできるほか、インタラクティブ(双方向)性やコストパフォーマンスなどの利点が多く、オンラインだけでなくオフラインの企業からも、高い注目を集めている。(図1:公域トラフィック vs 私域トラフィック)

公域トラフィックとの違いは?
顧客獲得コスト上昇が重荷に

 簡単な例を挙げて、公域(パブリック)と私域(プライベート)の違いをもう少し説明しよう。

 ある百貨店の1日の来店者数が5,000人で、うち10%の500人が、あるブランド(A)の前を通ったとする。うち30%(150人)が足を止め、商品を手に取ったり、質問をしたりし、最終的に商品を購入。顧客情報を残したのは10%(50人)とする(実際はもっと少ないかもしれない)。

 公域トラフィックはこの場合、百貨店の来店者数、つまり5,000人だ。多いように見えて、実はプロモーションなどで積極的にアプローチしなければ、顧客との接点獲得は難しい。

 また公域トラフィックは自分でコントロールできず、競争も激しい。ネットでは淘宝(タオバオ)、天猫(Tモール)、百度(バイドゥ)などでのバナーやリスティングなどフロー型のウェブ広告がこれにあたる。

 広告出稿増など競争も激しく、広告費用単価も上昇している。淘宝の2013年の顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)は30元/人前後だったが、2018年には300元/人を超えた。

 このような状況下で、企業は私域トラフィックの重要性を意識し始めている。自身のトラフィックがあれば、好きなときにアクセスして存分に活用できる。費用を別途支払う必要もなく、販売への転換(コンバージョン)やリピート購入も期待できるからだ。

 前述の百貨店の例に戻ろう。カウンターにいるセールス担当者が足を止めた150名にサンプルを手渡し、微信のアカウントを登録してもらうとする。このようにして生まれるのが私域トラフィックだ。

 その場では何も購入しなくても、微信の朋友圏(モーメンツ)で商品の効果やクチコミ、プロモーション情報などを発信し続ければ、いつかは販売に転換される可能性がある。 新商品が出た時にも情報を発信することで、新たな消費を刺激することもできる。これらすべて費用はほぼかからない。

 公域トラフィックの費用が上昇していく中、こうした私域トラフィックを活用することで、既存顧客に対してのみならず、潜在顧客へのアピールにも大きな効果が期待できる。(図2:公域と私域のトラフィックの流れ)
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