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中国ソーシャルEC市場調査レポート (1)
中国ECの“影の主役”としてソーシャルECが急成長
2021年6月1日
中国ECの“影の主役”として急成長
存在感増す「社交電商(ソーシャルEC)」徹底調査

  アリババの淘宝網(タオバオ)が誕生した2003年以降、中国の消費者向けネット通販(Eコマース)市場は順調に成長を持続させてきた。しかし近年は成長速度も鈍化。市場の飽和感も否めない。

  顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)が高騰し続ける中、それを打破する新たな“ブルーオーシャン”として期待を集めるのが「社交電商」だ。

  社交電商とは中国語でソーシャルという意味の「社交」、つまりソーシャルネットワークサービス(SNS)を指し、「電商」は電子商務(電子商取引)、つまりECを意味する。よって社交電商は「ソーシャルEC」と訳すことができる。

  ソーシャルECとはその名の通り、SNSなど社交の場から商品ページに誘導し、販売転換(コンバージョン)するシステムを備えたEコマースのことだ。

中国のソーシャルECとは?

  中国の社交電商(ソーシャルEC)とは、チャットアプリの微信(ウィーチャット)、ミニブログの微博(ウェイボ)、動画投稿の抖音(ドウイン・TikTok)や快手(クアイショウ)といったSNSのツール上で、ユーザーのネットワークや彼らが発信するコンテンツを利用して、ブランドや商品の情報を拡散し、販売へと落とし込む手法だ。

  もちろんユーザーに商品を購入させることが最終目標だが、単に情報をフォロー・シェアしてもらうことで、効果的な販売促進を展開することが可能となる。ネット上の人間関係を利用した新たなEコマースモデルの発展形といえる。

従来型ECとの違いは?

  ソーシャルECの強みは発見型消費、分散型トラフィック、そしてSNS上での情報拡散の3点から説明できる。以下、従来型のEコマースと比較しながら説明しよう。

従来型ECとの違い①
■検索型 vs 発見型
  従来型のEコマースの特徴は「検索型」だ。つまり、消費者はまず欲しい商品をネット上でキーワード検索し、探す必要があった。たくさんの選択肢の中から希望の商品を探して選ぶことから、検索結果のランキング(リスティング)が大きな影響力を持つようになった。

  米グーグルや中国の百度(バイドゥ)など、検索エンジンサイトをいかに攻略するかが命題となり、SEO(検索エンジン最適化)やP4P(検索連動型)広告に多額な予算を投入できる大企業が有利となった。

  プラットフォーム側にとっても広告は大きな収入源だ。例えばアリババの場合、2019年のP4P広告収入は1,516億元で、収入全体の40.24%も占めている。
結果として、プラットフォーム上のトラフィック(※訪問や閲覧などデータが流れる量。中国語は「流量」)は一部の人気商品に集中。まさに「マタイ効果(※富める者がますます富む現象)」となり、中小ブランドのロングテール商品(販売量が少ないマイナーな商品)は埋もれていく運命となった。

  消費者がシェアする情報も購入した商品に関するものに偏り、積極的に情報が拡散されることはなかった。

  一方、ソーシャルECの購入プロセスは「発見型」といえる。消費者はSNS上でシェアされた情報やコンテンツから、目に止まり、気に入った商品を購入する。消費行動は受動的だが、同時に衝動的ともいえる。

  ソーシャルECで人気となる商品は、信頼関係やコンテンツによって選ばれる。 消費者は買いたいと思ったとほぼ同時に、その商品を「種草」(※ネットで商品を推薦するという意味のネット用語)する。結果的に、販売効率や転換(コンバージョン)率は大きく上昇する。

  消費者が情報をシェアする動機は、バックマージンや価格を操作することでさらに高まる。商品情報はスピーディに拡散され、顧客獲得コスト(CAC)はさらに低くなる。(※詳細は会員アフィリエイト型ソーシャルECをご参照)

従来型ECとの違い②
■集中型 vs 分散型

  次にネット上の訪問や閲覧などユーザーの行動データの総量であるトラフィックの視点から考察しよう。

  淘宝・天猫や京東(JDドットコム)に代表される従来型Eコマース企業は、自身に集まる巨大なトラフィックを出店企業に“シェア”し、ユーザーとの接点機会を分け与えている。いわば「集中型」トラフィックモデルといえる。

  このモデルでは、メーカーやブランドなど各出店企業は、他社との競争に勝つために、多くの対価を支払わなければならない。

  これに対してソーシャルECモデルは、SNSを情報の伝達手段とし、各ユーザーのネットワーク(つながり)自体がトラフィックを生む「分散型」の構造だ。
ユーザーからの信頼もSNSでの推薦や情報拡散によって醸成され、商品自体のコストパフォーマンスが良ければクチコミでその良さが広められていく。よって、メーカーやブランド企業は広告宣伝に巨額の予算を投入する必要がなく、前述のロングテール商品(マイナー商品)にも発展の可能性がある。(図1:従来型ECとソーシャルECのトラフィックモデル)
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従来型ECとの違い③
■ロート型 vs 拡散型
  従来型のECでは、プラットフォームにアクセスしながら、多くのユーザーは実際に商品を購入せずに離れていくことも多い。間口は広いが出口は狭い、まるでロート(じょうご)のようなイメージだ。そのため販売転換(コンバージョン)率は決して高いとはいえない。

  これに対してソーシャルECでは、ユーザー自ら情報を拡散してくれるため、効率良くトラフィックを生むことができ、かつ新規顧客の獲得コストも極めて低くおさえられる。購入に至る動機も信頼関係をベースとしているため、より高いコンバージョン率が期待できる。

  同時に中国で「社群」と呼ばれているネット上のコミュニティにつけられたタグごとにユーザーを区分することで、ターゲットを絞ったマーケティングも可能となる。 ユーザーは消費者であると同時に推薦者でもある。情報のさらなる拡散により、ユーザーは雪だるま式に増えていく。(図2:従来型ECとソーシャルECの販売転換(コンバージョン)モデル)【図2】従来型ECとソーシャルECの販売転換(コンバージョン)モデル 
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